猪俣邸~到達したモダン数奇屋の住まい~

成城の閑静な住宅街に、美しい武家屋敷のような門構えを持つこの住宅は、巨匠吉田五十八の晩年の作品です。この建築には、彼自身の完成した近代数寄屋のスタイルからなる熟練の技が随所に施されています。

いやあ、それにしても広い敷地ですね。その面積はおよそ580坪あり、その北側に建坪100坪の平屋住宅、そして南側には一般公開されている「猪股庭園」がひろがっています。庭園は渡り廊下もよって玄関前庭と主庭に分けられていて、さらに主庭も光悦寺垣によって、茶室前の露地庭と邸宅の前面庭とに分けられています。3つのお庭が楽しめるわけですね。ほの暗い茶室周りのお庭と広々とした明るい邸宅の南にひろがる庭の特色はとても対照的ですねえ。

外観は全体としては小刻みに屋根を組み合わされ、周囲に威圧感をあたえることのない穏やかな屋根の線が描かれています。南側から見ると屋根が三層構造となっていて、少しずつ前にずらしながら屋根がのびていますね。施主が武家屋敷のようなつくりを要望されたとのことで、建物は簡素ながら格調高い意匠で統一されています。門のふくらみは、内側が待合になっているのがわかるためのものです。玄関へ向かう飛石とは逆方向に手前にくる敷石は茶室へと露地の一部となっています。この離れのようになっている茶室は、玄関ホールから絶妙に折れ曲がった渡り廊下によっても接続されています。四畳半の間取りで、裏千家家元の名席「又隠」の写しとのこと。

住宅内部は東側にある玄関ホールから、一体的な空間となってつながっている21畳ほどのリビングと8畳ほどのダイニング、そして夫人室・和室・書斎が東西に並び、それらが全て南向きの庭園に面した平面構成となっています。じつはこの住宅、数寄屋建築に洋風の意匠が入っているのも特徴の一つで、洋間であるリビングの壁全面に床の間が入っていたりします。

シンプルな玄関から中に入ると、そこからの視線は、低い窓を通して中庭の緑、そしてダイニングまでのびています。 玄関の踏み込みは玄晶石を正方形に整形し45度の角度で敷き詰めた四半敷きというものになっています。 玄関の式台は松の幅広板で、床の高さで延び、浮いたように見えますね。部屋は間仕切りの無い開放的な空間となっていて、庭側が全て戸袋に収納可能な引き込み戸となっていて、その風景が室内に入り込んできます。モダン数寄屋って感じですね。開放的な部屋を造るための徹底した工夫がされています。腕のよい大工と検討を重ねながらたどりついた苦労が身を結び、多くの名建築が生まれたのでしょうね!

茶室以外では唯一の和室は洗練された数寄屋風の広間となっています。床の間には違い棚や戸袋も無いシンプルな造りです。和室の奥には、後に吉田の弟子によって設計され増築された書斎ともうひとつの茶室があります。書斎は庭側に少し出た形状となっていて、ここも引き込み戸によって庭の風景が取り込まれています。茶室は裏千家家元の名席「今日庵」の写しとのことです。

う~ん、濃い。日本建築って味わいが濃いわあ。見てもまだまだ足りないほど、そこにはその建築のもっている深い要素が押し寄せてきます。まだまだ勉強不足ですね。ついつい現代建築を見に走ってしましますが、日本の伝統的な建築を見る割合も増やしていかないといかんなあ。と、しみじみ思ったりしました。この住宅は、現在は世田谷区へ寄贈され、(財)世田谷トラストまちづくりが管理運営して一般公開されています。どうぞ巨匠の熟練した技を堪能してみてはいかがでしょうか!

建築:猪俣邸

設計:吉田五十八

建築作品を見た雑誌等:住宅特集 年月号、住宅建築別冊17 数寄屋造りの詳細 吉田五十八研究

建築のある場所:東京都

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