神奈川県立図書館・音楽堂~良質で優しい戦後の近代建築~

JR京浜東北線桜木町駅から徒歩10分ほど、ランドマークタワーを背にゆっくりと紅葉坂をのぼりきるとこの建築はゆったりと横たわっています。この建物は1954年に竣工した前川國男が初めて設計した公共施設であり、前川の戦後初期の代表作の一つです。

向かって左手に図書館があり、正面に音楽堂があります。複合したこれらの建物は、敷地のゆるやかな高低差を利用しながら音楽堂と図書館の正面をL字形に並ぶようにずらして配置され、広い前庭(現駐車場)のある開放的な空間をつくっています。建物全体のコンクリートは全て手作業による手練りで行われていたそうで、この時代のコンクリートは現代より強く、美しく出来ています。建物と建物の間を音楽堂2階の高さから水平に庇が長く続き、その先は図書館の1階部分へと渡り廊下でつながっています。 建物の外観は穴開きテラコッタブロックが使用され、コンクリートの強さをなるべく抑えるための細かい工夫がなれています。むき出しの柱や、ガラスも建物を軽快に見せていますね。共有する穴開きブロックをパラペットとして立て、連続性を持たせることで建物に一体感を与えています。

その穴あきテラコッタブロックを積んで仕上げられた図書館の外壁は、図書館の開口を覆ったカーテンウォールとなり、内部空間に直接光が入るのを遮断し、ブロック穴に反射した柔らかい光だけを導いています。音楽堂は南側道路面より離れた位置にあり、開口部の多い外観を形成しています。大きな規模の建物ですが、戦前の公共建築のような威圧的な雰囲気はなく、正面の水平に延びた深い軒が、人を迎え入れるような優しい佇まいをしています。大きなピロティがあり、柱の間からすっとすいこまれていくようなつくりになっています。 さすがコルビュジエの弟子!師匠の方法を上手く使っています。

図書館内部へ入ると、閲覧室内には穴あきブロックを介した安定した光が満ちた気持ちのよい空間になっています。 中央には吹き抜けが設けられ、北側は全面ガラス張りとなっています。こちらも直接光が室内に差し込まないよう、美しい縦格子状になったコンクリート壁が並んでいて、そこからの柔らかな光で空間が満たされています。一見表層的なデザインのようにみえるなかに、読書に最適な光や静寂さ、人と人との間の空間など、図書館という場に求められた環境や質が実現していますね。とてもいいです!

音楽堂は、少し背の高い音楽ホールをホワイエが取り囲む構成になっています。ホワイエは太陽光が差し込む開放的で気持ちのよい空間です。柱と登り梁、階段状に続く客席の段差を活用した勾配天井もいい感じですね。中庭からの光は内部空間の打放しコンクリートの冷たさを軽減させています。その空間には公演の合間にくつろぐ人たちや待ち合わせをする人たちが思い思いに時間を過ごしている光景が素敵です。これらの親しみやすい公共の場の実現こそ、この建築の魅力です。 音楽堂というとお高い方々が集まる気取った敷居の高い空間をイメージしますが、ここは気品はありながらも庶民的で気取らない市民のための近代建築が目指した模範的な空間がそこにあります。薄く細く見せるために工夫した楕円状の柱や天井の照明、階段手すりなど細部にまでデザインの検討がなされていますね。床の仕上げも素晴らしい。セメントと石を打ち込んだ後、研磨を掛けるテラゾーが2色使いによる全て職人の手仕事による繊細な仕上げです。

そして外側が赤や緑で着色された親しみある表情の音楽ホールは、壁面が木でできている「木のホール」が特徴です!音楽堂の設計は初めての経験だった前川は、音響に定評のあったイギリスのロイヤル・フェスティバル・ホールを参考に設計を行いました。木材を多く使用したこのホールは開館当時「東洋一の響き」と絶賛され、国内はもちろん海外からも高い評価を受けています。ちなみにわざわざ木を使ったわけではなく、戦後の経済的事情から木以外の選択肢はなかったとのこと。でもそれがよかったのですね!日本には音楽専門の公共施設というものがなく、この音楽堂が初めての公共音楽ホールでした。 戦後まだ衣食住に窮していた時代にこれだけの文化施設をつくったのは、当時の神奈川県知事が考案し建築にいたったおかげです。ちなみに鎌倉にある近代美術館もこの人の発案と実行力によるものであったとのこと。熱心に動いていただいてこの名建築があるんですね。すばらしいです!

そんなこの建築が建ってから50年以上が経ちます。昨今、戦後近代建築の保存問題が色々と取り沙汰されていますが、その問題の引き金になったのが1993年のここら一帯の文化施設群を建て替える再整備計画です。これに対して建築界をはじめ、一般市民、音楽家などの保存要望が大々的な保存運動に発展し、結局、バブル経済の崩壊のため、計画は行きづまり保存の流れとなりましたが、その後の建築の保存問題に一石を投じた議論の機会になりました。 なかなか建物が建てにくい社会になっているからこそ近代建築という存在を今一度見つめ直す時代にきているのではないかなと私も感じていますね。

建築:神奈川県立図書館・音楽堂

設計:前川國男建築設計事務所

建築作品を見た雑誌:ja前川國男、前川國男(鹿島出版会)

建築のある場所:神奈川県

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