安曇野高橋節郎記念美術館~古民家との調和がはかられた繊細で透明な建築~

長野県南安曇郡北穂高村(現在の安曇野市)出身であり、現代漆工芸の代表的な作家、高橋節郎氏の作品を収蔵し展示する美術館です。氏は、鎗金という手法を駆使し、黒と金を基調に、安曇野の自然などを壮大かつ幻想的な作品として表現しています。そんな氏の芸術的な感性を養ったこの安曇野の風景、生まれ育った生家の敷地にこの美術館はあります。

敷地は湧水と雄大な北アルプスで名高い安曇野の風景がひろがっています。空気が澄んでいて、湿気の少ないのどかで美しい場所です。敷地内には現存する多くの樹木と共に高橋氏の生家である江戸中期建てられたとされる茅葺の主屋や土蔵が残っています。美術館はそれらの古い建物内部をリノベーションした棟と、新設した棟から構成されています。

新設した棟の建築全体は、深い緑色の花崗岩と漆喰によって外観が仕上げられていて、周りの緑豊かな景観に配慮しながら、威圧感なく佇んでいます。南北に広く構えるエントランス部分は庇のような屋根によって、建物全体を低く抑えるようなデザインとなっています。前面の水庭からは壁面がガラスで構成された透明な建築を介して背景となる樹木を感じられますね。

館内は古民家群とは同化させず平屋平面によるシンプルで抽象的な形態となっています。中庭を挟んで古民家群と向き合うような計画となっていて、新設棟とリノベーション棟、新旧建物による関係性が明快に表現されています。新設棟のギャラリーやメディアフォーラムといった来館者に対して開放する空間は中庭に面して配置され、ガラス面を多用することで室内からも外部を感じることができます。作品の鑑賞と共に建物内からも古民家や周辺の安曇野の風景を望むことができるような心地よい空間ですね。庭に面したアルミルーバーは繊細さと落ち着きのある空間を引き立てていますね。

そしてその透明に開放されている空間に覆われるように展示室や収蔵庫は配置されています。展示されているものが漆の作品であることから、展示室は照度を抑えた閉じたスペースとし、静かに氏の作品と触れ合えるような空間となっています。

いやあ、空間を構成しているディテールや素材の使い方がとても繊細で、そこには細部にまでスタディを繰り返したであろう思考の積み重ねを感じました。また、この建築では寒冷地における室内環境制御や省エネルギー対策も重要なテーマとなっていて、建物の周囲に設けたエアトレンチを積極的に利用したパッシブな手法による環境制御がなされています。

リノベーション棟は、再生前に傷みが激しかった南の蔵はギャラリースペースとして改装され、生涯学習のために市民が利用できる空間になっています。西の蔵と北の蔵は一部収蔵に使用する他はそのまま残され、歴史的建造物の再生と現代建築の共生がうまくはかられていますね。歴史的価値が高い古民家の保全とともに、芸術家の作品や業績を表彰する美術館としての機能との調和がバランスよくつくられた良作だと思います。

建築:安曇野高橋節郎記念美術館

設計:宮崎浩/プランツアソシエイツ

建築作品を見た雑誌:新建築 20039月号

建築のある場所:長野県

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