李禹煥美術館~「もの」と対話のための時間をつくる~

瀬戸内海は直島の南側にあるこの建築は、浜からなだらかに続く丘の先、その海と山に囲まれた小さな谷間にひっそりと位置する美術館です。「自然の地形と一体化し,風景に溶け込む建築」をテーマにしているこの美術館は、三方が山で正面が瀬戸内海に面する敷地の景観を生かすため、半地下構造にした鉄筋コンクリート造となっています。その建物を正面から見ると、そこには高さ6メートルほどのコンクリート壁が重なり合って延びているだけで、建物の全容は見えません。

その美術館には、1970年前後における日本の現代アートのムーブメント「もの派」の代表的な韓国出身の現代美術家、李禹煥氏の1970年代以降から現代に至る絵画・彫刻作品が展示されています。「もの派」とは、、彫刻や絵画美術とは対照的に、現実に存在する石や木、鉄などの素材の組み合わせによってモノの力を印象的に映す1970年代前半あたりから広まった表現方法やその流れのことをいいます。そんな彼の作品は、日本、韓国のみならず、世界的評価を受け、現在では欧米を中心に芸術活動をしているとのこと。そんな李氏の作品を展示する美術館は、直島初の個人美術館として2010年瀬戸内芸術祭に先駆けて開館しました。李禹煥美術館の作品は安藤建築と響きあい、空間に静謐さとダイナミズムを与えています。

美術館へのアプローチは、ちょうど海をのぞむことができる谷の上部から、階段状になっています。階段を降りながら進んでいくと、向かって左側には、海への眺望をさえぎるように大きなコンクリー卜壁が立っています。 階段を下りると壁による隔たりはなくなり、広い海をのぞむ景色が目の前に広がり、玉石が敷き詰められた一辺30メートル四方の正方形となった前庭にたどり着きます。前庭には李氏の作品である「関係項−対話」、「関係項−点線面」と呼ばれる石と柱で構成された作品が展示されており、訪問者はこの前庭を通って奥にある本館へと向かうことになります。歩みを進めて行くうちに、自分が徐々に内なる世界、李禹煥の作品世界に入り込んで行くような感覚を覚えますね。

館内に入ると、まずは70年代から現在に至る絵画・彫刻の「出会いの間」、そして「沈黙の間」へと入っていきます。この暗い「沈黙の間」には、四角く切り取られた窓からの光が差し込み、作品である「関係項‐沈黙」と呼応しています。次に「影の間」にうつると、ここはスペースとしては小さいですがプロジェクターによる映像を石の影となる部分に美しく投影した存在感のある作品「関係項‐石の影」が展示されています。そして最後の空間は、一転して明るい真っ白に塗られた空間「膜想の間」となっています。そこには、三面の壁に作品「対話」があり、空間はその作品に呼応するかのように弧を描いています。 う~ん、うまく説明できないけど、安藤建築のシンプルな空間にこの作品群が答えている。いや、この作品に安藤建築が答えているのか。とにかくその空間が一体となってぐわっと鑑賞者に語りかけてくるようですね。

李氏が目指した空間は、洞窟のような美術館、半開きの空が見えて、まるで胎内へ戻るような、お墓の中へ入っていくような場であったとのこと。安藤は、李氏が着想した3つの箱型の展示空間に対し、屋根を持たない三角形の広場でつなぐプランを提案しました。そして安藤による50メートルの長さの壁の正面に30メートル四方の広場を設計し、さらにそこに李はここに18.5メートルの六角形のコンクリート柱を立てた。このようにまさに美術家と建築家がぶつかり合って実現した美術館なんですねえ。そこには自然と建築と作品とが呼応しながらも、「もの」にあふれたこの現代社会の中で、自分を見つめるという静かな時間をもたらしてくれます。

建築:李禹煥美術館

設計:安藤忠雄建築研究所

建築作品をみた雑誌:新建築20109月号

建築のある場所:香川県

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