文京区立森鴎外記念館~文豪の思索を辿る建築~

小説家である森鴎外の生誕150周年を記念して、既存図書館の建替えで2012年に開館した建物です。建物は、鴎外が亡くなるまでの半生を過ごした住居「観潮楼」という木造家屋の跡地につくられています。その藪下通りに面した建物南側の入口には、当時の敷石や大きな銀杏の木が実際に住んでいた時のまま残されています。

敷地周辺は今もなお、静かな下町の街並みを残しています。その街並みに配慮し、建物は団子坂に面して斜めにセットバックして低く構えた佇まいとなっています。街にとけこむような落ち着いたプロポーションですね。周辺環境からスケールアウトしないように、建物は地下部分に展示室と収蔵庫をもうけ、地上部分のボリュームを抑え、2階建ての住宅に近いような高さとしています。

建物の外観は、ここ最近の美術館建築によく見るカジュアルな雰囲気とは逆に、フォーマルな大人の建築という感じです。ビターチョコって感じです。建築家は、鴎外の虚飾のない美しく簡素な文体で構成されている作品とこの建築がリンクしているような表現を目指しました。建物は若き鴎外が学んだドイツの歴史的街並みを感じさせるレンガ張りの建物となっていて、鴎外の印象と、堅実なドイツの歴史的街並を重ねあわせて表現されています。

外壁を落ち着いた淡い緑がかった灰色のレンガ貼りで構成されています。壁は出来るだけ色ムラが出てくるように貼られ、その表面をグラインダーで研磨しています。そうすることで壁には繊細で柔らかい質感を出しています。その仕上がりは建物としての量感がありながらも、そこには何か軽やかさみたいなものを感じます。この表層を削って地のレンガを出す手法は、建築家が若かりし頃にイタリアで学んだ建築修復からの発想によるものらしいです。そして何よりも職人さんの手による研削が建築の表情を味のあるにしていますよね!これ、大変な作業だったろうなあ。でも素晴らしい壁に仕上がっています!建物の外観は、太陽の高さによって壁面をまるで能面のように微妙に変化させ、そこには光と陰影による奥行きが生まれています。そして団子坂に面するファサードはその洗練されたレンガの量魂とリン酸処理を施したルーバーが存在感を示しています。その鈍く輝くルーバーは、二階にある図書室に外光を導きながら視線を遮り、ファサード全体のボリューム感も抑えています。

敷地は南北2つの道路に面していて、メインとなる北側はトップライトからなる傾斜屋根が存在感のある外観をつくり出していて、南側は庭や大きな銀杏を眺めながらアプローチする通路が設けられています。アプローチにある壁は微妙に変化してかみ合いながら、エントランスへと誘導してくれます。エントランスにある大きなステンレスの自動ドアから入ると正面は森鴎外の胸像があります。上から降り注ぐ光が微妙なゆらぎを与えています。

内部空間は打ち放しコンクリートと漆喰、濃い木目調の内装により仕上げられています。地震や温熱の影響を受けにくい地下に展示空間と貴重な資料を保全する収蔵庫が設けられています。団子坂から地下にある深く静かな展示室までは、視線の奥に光をもっていくことで自然な流れができていて、シークエンス豊かな空間がつくられています。展示室はその内容もすばらしいのはさることながら、動線も明快で飽きのこない回遊性がありますね。中にあるカフェも庭が見えて大変落ち着くスペースですね。スイーツが楽しみながら、そこから大きな既存の銀杏の木を望むことが出来ます。受付を兼ねたミュージアムショップのスペースもまたおもしろい表現がなされています。一見コンクリートの壁の中に木材が嵌めこまれたような不思議なスペースに見えますね。枠がない建築。エレメンタルな表現ですね~。取り合い部分のおさまりが泣かすなあ。

いやあ、恣意的な意匠を排除したシンプルでディテールを突き詰めた空間。すばらしいですねえ。

建築家の森鴎外に対する畏敬の念が感じとれます。そこには鴎外が生きた中で辿ってきたであろう深い思索の痕跡に出会うための静謐で凛とした建築が実現されています。

建築:文京区立森鴎外記念館

設計:陶器二三雄建築研究所

建築作品を見た雑誌:新建築20131月号

建築のある場所:東京都

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