山口文象自邸「クロスクラブ」~日本的民家とモダニズムが融合した住まい~

東京の閑静な住宅地にある日本の伝統的な住まいであるような、そうでもないような住居。木造モダニズムって感じなんですかねえ。そんな建築を設計した建築家山口文象は、1930年代から60年代にかけて活躍した近代日本建築運動のリーダーの一人。そして彼はモダニズム建築のデザインと同時に、数奇屋風建築の名手でもあった人です。そんな彼が設計して1940年に竣工したご自身の住居です。でもこの建築のために選んだ意匠はなぜか民家っぽい骨太な木構造と瓦屋根。はたしてこれが彼が本当にやりたかったことかどうかはわかりませんが、戦時中の資材統制により、材料が手に入らなかった影響からこのようになったとも言われています。現在は2階が音楽家であるご子息の自宅となっていて、1階をパーティやコンサートの会場として一般開放されています。

敷地は南北の道路に面しており、奥行きのある細長い形状になっています。現在の建物は、北側に2階建ての母屋、南側に平屋の離れがあって、その間に中庭がはさまれた配置構成となっています。建物は両側道路に、母屋も離れも間口いっぱい、敷地ギリギリまで接しています。外観は道路から見ると、母屋の大きな切妻の瓦屋根が、1階から始まり2階までを覆っています。壁と屋根は縁は切られていますが同じ面でそろっています。現在は正面に軒がありませんが、竣工当時は屋根も中央部のみ2層分で、両サイドは1層分だったため、大屋根形状ではなく、現在の形よりも軽やかな印象だったようです。ちなみにこの建築は、完成から幾度となく増改築が重ねられて現在の形となっています。たとえば1950年代の改築では、書斎と入口を食堂に変更したために、入口が道路側に移っています。1960年代の増改築では個室が付け足されていますねえ。などなどその後も改築は行われ、外壁がタイル貼りに変更されていますねえ。

壁の奥にある木製のドアを開くと室内へは上履きのまま入れます。1階の一般解放されているサロンにはグランドピアノが置かれ、大きな低めのテーブルが置かれた落ち着いた居心地のよい空間になっています。当初から変わらないのが、このサロンの空間とのことです。玄関や出入口、天井高やキッチン等、全体的に様々なもののスケールが、今の住宅より少し小さめに作られている印象です。内部空間は日本の民家みたいなのですが、その中に西洋の家を思わせるようなインテリアもあって、それらが融合している雰囲気は現在でもなぜか新しさを感じてしまいます。サロンの奥には中庭が見えます。1階のこの空間は靴を脱がない場所となっているため、玄関、サロン、中庭と空間が気持ちよく連続しています。緑豊かな広い中庭のなかには、戦後すぐにつくられたプールがあります。贅沢ですなあ。いい感じに薄暗いサロンから、低く抑えられた開口部の向こうに見える樹木や、離れなど、奥行きのある景色がまたいいわあ。

この文象の住宅は民家的でありながら洗練されたモダンな感覚もある。それはモダニズム建築と日本の伝統建築の融合、日本建築におけるモダニズムの表現といったことについて、彼が真摯に向き合っていたことが伝わってきますね。そしてその今も変わらぬサロンの空間を人々に提供している「クロスクラブ」。この名は晩年にクリスチャンになった文象にちなんで十字架を意味するものでもありますが、人や世界が交差する場所になってほしいという想いも込められているとのことです。中庭を中心とした当時は閉鎖的な住宅がクロスクラブとなって、人が集う場としてだれもが利用することができ、住宅という建築がとまちに開いてかかわっている感じがすばらしいなと思いました。文化的価値のある古い住宅を残すアイデアってこれなんじゃないかなあ。

建築:山口文象自邸「クロスクラブ」

設計:山口文象

建築作品を見た雑誌等:建築家山口文象 人と作品(著:RIA建築綜合研究所)

建築のある場所:東京

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