ブリオン家墓地~穏やかで優しい楽園のような建築~

このお墓は、電機メーカーのブリオンヴェガ社の創始者であるジュセッペ・ブリオン氏夫妻のために建てられたものです。そしてここにはその設計を手がけたカルロ・スカルパとその奥さんのお墓があることでも知られています。ヴェネツィアから北へおよそ20キロほど離れたトレヴィーゾ郊外にその墓地はあります。周辺は畑に囲まれた穏やかな田舎の風景がひろがっています。その風景のなかに一般の市民墓地があり、ブリオン家墓地はその一角に建てられ、芝生に覆われた静かな空間となっています。

この作品は、改修・増築といった予算や機能などで制約の多い仕事がほとんどであったスカルパにとって、それらを気にすることなく彼が思うがままに設計した初めての作品です。スカルパは多くのプロジェクトを手掛けましたが、実現した新築の建築はこの墓地も含めてわずか3作品。その中でこの作品はスカルパの代表作と言われています。

墓地の構成はエントランス塔、ブリオン夫妻の墓、その家族の墓、池に浮かぶ瞑想室、そして礼拝堂からなっていて、そこには芝生や池、小川のような水路、オブジェなども配置されています。ジブリアニメ「天空の城ラピュタ」の廃墟となったラピュタの空中庭園のような雰囲気を感じますね。

エントランスはスケールが抑えられた薄暗い空間となっていて、神聖な場所へアプローチする為に心を落ち着かせる前室のようになっています。気持ちの高ぶりをおさえながらエントランスにある階段を一歩一歩上ると静かで美しい庭園を2つの丸窓からのぞくことができます。この2つのリングは墓地に眠る夫妻の永遠の愛を象徴した意匠となっていると同時に、その先に見える内部との境界を隔てています。肉体だけはこの場所にとどまって、魂だけは自由に通り抜けれるようにデザインされているようにも感じます。床には長細い銅版プレートのようなものがデザインされていて、横から入ってくる光によってそれらが光り輝いて通路を誘導してくれています。

墓地の内部に入ると、周りを取り囲んでいる壁が人が立ったときと座ったときの視線で、その場から見える景色が異なるように空間的な仕掛けがなされてあります。中央に立ち、丸窓を見ると、その穴の向こうに街の教会の鐘塔が見えます。座ると向こう側には墓地の壁のみが見え、周辺の民家や畑などが見えないように視線が遮られ、教会の鐘塔の先端のみが見えるいわゆる借景となっています。そして歩いていくとその視点が変わると風景が変わっていく。その空間の様相は日本の寺院のような雰囲気を醸し出していますね。

エントランスから向かって右手には瞑想室がハスの咲いた池に浮かぶように建てられています。向かって左手に進むと開けた先にはブリオン夫妻のお墓がアーチの下に寄り添うように安置されています。水路によって誘導されて2つのお墓にたどりつきます。お墓は水路に対して45度に振られて斜めに配置されています。水路に沿って真っ直ぐ歩いていくと、お墓の前に着いた時に自然と真正面にむかうことができる、さりげない動線の仕掛けになっています。お墓を覆うアーチはヴェネツィアの橋をモチーフにしているとのこと。アーチの裏側にはカラフルなガラスモザイクがきらきらと反射しています。そういえば墓地全体にみられるつくりも、ベネチアを意識した岸辺や水路が設けられているような気がしてきました。この空間全体の中にはベネチアというまちを小さく圧縮されたようなものを感じます。それはスカルパが育ったベネチアの原風景がそこに無意識に表現されているのかもしれません。

礼拝堂のほうへ回廊を進んで行くと小さな部屋があります。広々とした庭から暗く閉じた礼拝堂にすぐ入るのではなく、徐々に空間を閉じていくという緩衝空間となっています。エントランスと同様に、神聖な空間に入る前段階として心を整える空間となっています。そして、礼拝堂へと導かれると空間は打ち放しのコンクリートの空間ですが、木材のような質感の壁や障子のように造られた壁や扉などは空間にあたたかさを与えています。上部にはピラミッドのような三角天井、その上部にある天窓からは光が降り注がれます。

墓地をめぐらせている壁、内部空間を構成している各ディテールにはスカルパによる様々な意図がこめられています。それはここを訪れる人々をどのように導かせるかという想いによる空間的仕掛けであると思います。それらが随所に施されているのを見ると、そこには墓地に訪れるご家族を思うやさしさのようなものを感じましたね。

建築:ブリオン家墓地

設計: カルロ・スカルパ

建築作品をみた雑誌:au カルロ・スカルパ

建築のある場所:イタリア

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