ユダヤ博物館~歴史を語る建築空間~

ユダヤ博物館はベルリン市中心部の南、クロイツベルクにあり、「コレギエンハウス」と呼ばれる、高等裁判所だった旧館と2001年にオープンした新館からなっています。今回主にご紹介するのは新館のほう。この新館はホロコースト生存者の両親から生まれた、ポーランド出身のユダヤ系アメリカ人建築家ダニエル・リベスキンドがコンペによって勝利し、設計を手がけました。建物は敷地内を細長い不規則なジグザグ状の複雑な形をしています。上空から見ると、それは引き裂かれたダビデの星を表現しています。外壁はメタリックなチタン亜鉛合金の板で覆われ、切れ目のような細長い窓がこれまた不規則に開いています。まるで亀裂が入ったかのような開口部のデザインです。この博物館は、ユダヤの歴史を建築空間と展示の相乗効果でドラマチックに表現したものとなっています。強制収容所におけるユダヤ迫害の歴史を連想させる空間など、ホワイト・キューブ型の博物館とは一線を画したコンセプチュアルな建築となっています。

博物館隣接するコレギエンハウスからの地下通路から入ることができます。コレギエンハウスはチケット売り場、セキュリティチェック、ロッカー、レストラン、講演室などとして利用されています2007には、この建物の中庭にリベスキンド設計により全体をガラスで覆った新たなスペースが設けられました。この空間はかつてのユダヤ人の祝祭の場をイメージしたもので、樹木のように枝分かれする柱によって支えられています。この場所では講演や演奏会などが行われています

博物館の下に達すると、敷地の地下を斜めに貫く「軸」と呼ばれた通路が交差している分かれ道に出会いますこの地下通路は、床が傾いており、来場者はこの不安定な感覚のなかでユダヤ人の迫害の歴史を学ぶことになります。は大きく分けて3つあり、その軸はそれぞれドイツにおけるユダヤ人の生き方をしています。ドイツからの亡命を象徴する「亡命の軸」、ドイツの歴史の中での継続性を象徴する「持続の軸」、さらにこれらを横に貫く「ホロコーストの軸」で

「亡命の軸」の地下通路は勾配がついていて、進んでいくと天井が近づいて圧迫感を感じます通路の壁には、ロンドン、ブリュッセルなどユダヤ人たちが亡命した町の名前があります。その先は建物の外へ出て「亡命の庭」と呼ばれた場所にでます。ここは地下に向かって掘りこまれた庭で、その床は急角度で傾いています。傾いた床には、垂直に7×7=49高さ6メートルのコンクリート柱が林立しています。その柱の上には土があり、平和と希望の象徴であるオリーブとグミの木が茂っています。この見通しのきかない傾いた不安定な庭は、見知らぬ新天地へと亡命したユダヤ人たちの不安定な心境を表しています。柱の数の49はイスラエルの建国年1948年に1を加えた数字で、その48本の柱の上にはベルリンの土、そして残る1本の柱の上にはエルサレムの土が入っていて、両国のつながりを表していますそして7という数字はユダヤ教の聖なる数でもあります。

もう一つの「ホロコーストの軸」と呼ばれる通路を歩くと、その壁にはアウシュビッツ、ビルケナウといった強制収容所の名前が並んでいます。壁の中は展示スペースにもなっていて、そこにはホロコースト犠牲者の遺留品が展示されています見学者はここで失われた個人の記憶と向き合うことになります。「ホロコーストの軸」のつきあたりには、「ホロコースト・タワー」と呼ばれる小さな部屋があります。高さ24メートルの煙突状の塔の中はがらんどうで、窓はるか上方天井に一つしかない暗い空間で。冷たいコンクリートに囲まれた狭い部屋外の光が小さく差し込んでます。この光が表すのは、どんな意味がこめられているのでしょうか。この沈黙の空間は、ホロコーストに遭ったユダヤ人たちの悲劇を共有し、悼むための部屋となっています。見学者その塔の底で、はるか上から差し込む光を見てたたずむことになります

そして最後のルートは「継続の軸」となります。展示室へ昇る階段は「持続の軸」を通って行った先にあります見学者は地下から3階まで急な階段を上り、各階に設けられた展示室を通りながらドイツ系ユダヤ人の過去から未来にわたる歴史や生活に関する資料を見ることになりますそれはホロコーストを越え、過去・現在・未来へとつながっていく長い道のりです。

地下から階までのおよそ20メートルほどある「記憶のヴォイド」にはイスラエルの彫刻家メナシェ・カディシュマンのインスタレーションがあります。これは10000枚の丸い鉄板が床一面に敷き詰められたもので、の鉄板には目・鼻・口に見えるような穴が開いています。これらのまるで人間の顔のような鉄板を踏まずにここを通りぬけることはできません。踏むたびに大きな音がヴォイド内に響き渡ります。ままるで人の顔を踏んで、踏まれた人が悲鳴を上げているようにも感じます。迫害されたユダヤの人々の無念さが伝わってくるような空間でした。

このユダヤ博物館は、ユダヤ人の運命を感じる建築であり、建物そのものが歴史を語る博物館です。ぜひ実際に訪れて感じて欲しいと思います。

建築:ユダヤ博物館

設計:ダニエル・リベスキンド

建築作品をみた雑誌等:a+u 20029月号、 a+u 20168月号

建築のある場所:ドイツ、ベルリン

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