犬島アートプロジェクト「精錬所」~島を再生する循環型建築~

犬島は、岡山の宝伝港から定期船で海を渡って10分くらいのところにある、瀬戸内海に浮かぶ島です。現在では人口およそ60人ほどの小さな島です。島のシンボル・レンガ造りの煙突が印象的ですね。この犬島は古くは花崗岩の産業で栄え、その後1909年には胴の精錬所が設けられましたが、わずか10年で閉鎖され、100年あまりも放置され、廃墟として遺されていました。現在は経済産業省の近代化産業遺産に登録され、日本の近代化・工業化を物語る貴重な歴史資料となっています。

このプロジェクトは、負の遺産と化してしまった廃墟の島、犬島を、自然エネルギーによって、芸術の島へと再生して生まれ変わらせることでした。そこで生まれた犬島精錬所美術館は、犬島に残る銅製錬所の遺構を保存・再生した美術館です。運営しているのは財団法人直島福武美術館財団。その福武氏の「在るものを活かし、無いものを創る」というコンセプトのもとつくられた美術館は、精錬所の古い煙突や煉瓦を、デザインだけではなく機能として美術施設へと積極的に活用しています。

建築家は、将来変わることのない自然のエネルギーによって導かれた、風と共に巡るアート空間を目指して設計を行いました。黒褐色のカラミ煉瓦(精錬時に排出されたスラグを固めたもの)や、煉瓦造の煙突は、かつて精錬所であった頃のなごりとして犬島石の石垣の下とガラスの建築が、あらたにつくられたホールとなっています。この空間のベースは、大阪城の築城にも貢献した良質な薄いベージュ色の花崗岩と現しの木構造、ガラスなどで構成されています。

精錬所に向かってエントランスへ続くアプローチには、新たに積まれた犬島石の石垣と、精錬所があった当時に敷かれたカラミ煉瓦を床材にそのまま活用しています。カラミ煉瓦の組成は50%以上が酸化鉄であるため、表面の酸化皮膜が黒褐色にくすんでいて、インパクトを感じながらも味わい深い色合いです。

館内を巡りますと、たとえばchimney hallでは、ガラスのトップライトからの太陽の熱と既存の煙突とつながっていることで、それこそ名のごとく、煙突効果による温度差換気で空気の対流を起こしています。そしてその空気の対流でアートが動くことでそれらが視覚化されます。Earth galleryでは、空間をクールチューブとすることで、地中熱を利用した冷却ギャラリーとなっています。sun galleryでは、放置されていたカラミ煉瓦を敷き詰めて蓄熱体として採暖ギャラリーとしています。 メインのenergy hallでは、これらの空間からの空気を季節によって温度調節された年間を通じて鑑定した温度環境の空間をつくりあげています。アーチ構造の空間になっているのは、煙突が倒壊してきても安全なシェルターとして機能するように検討されているとのことです。これらは既存の地形に合わせて巧みに配置されていて、ディテールも綿密に検討されて見事に建築化されています。

そしてここの建築には、現代アーティスト柳幸典のアートワークが展示されています。日本の近代化に警鐘をならした三島由紀夫をモチーフにした柳幸典の作品が、この犬島という場所との関係性を構築しています。作品は、建築との協働による4つのスペースをひとつの作品として展開しています。作品の素材として、家屋の部材、犬島から産出される石、銅の精錬の過程によって派生するスラグなど、地場的な素材を使用されていました。特に家屋の部材が空中に浮いたように展示され、空気の対流によって揺れ動いているアートワークは、とても印象的でしたね。

それから地上には植物の庭があります。その植物の栄養は島を訪れる人々の排泄物によってもたらされているとのこと。来館者が増えてくれるほど植物が成長し、土壌下の建物はより熱的安定性を増していくわけか。すばらしいな。

自然とアートと生きるレガシーをつくりあげたこのプロジェクトは、島の自然と近代産業の旧跡、現代のアート・建築、それらが一つになって生まれていました。カラミ煉瓦とこの花崗岩のコントラストも心地よく、地産の材料を丹念に選定・使用したこの作品は、時間経過のなかでさらに魅力を増していくことでしょう。自然と建築とランドスケープを通じて、来館者に循環型社会形成の必要性を体感させるものになっています。しかも現在、島民の約半数が何らかの形でこの美術館に関わって働いておりまして、過疎高齢化が進んでいた犬島には、この美術館ができたことで活気が生まれています!

建築:犬島アートプロジェクト「精錬所」 ※現犬島精錬所美術館

設計:三分一博志建築設計事務所

建築作品をみた雑誌:新建築20085月号(p72-89

建築のある場所:岡山県岡山市犬島

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